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空と星と私達

≫愛しき歌姫に捧げるコイノウタ(ボーカロイド・ネギトロ)

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愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (1/8)

それはまだミクが感情というものを知ったばかりの日の出来事。
ミクの歌う声はまだたどたどしく、言葉を覚えたばかりの赤ん坊といった感じと言えば伝わるだろうか。
とはいえ、そこはボーカロイド。マスターであるいづるとミクの姉に当たるメイコの積極的な教育ということもあって、みるみるうちに成長していく。
心の内側から溢れる声が日に日に強くなっていき、歌声が少しずつではあるが生き生きとしていくのはさすがとしか言い様がない。
ミクの成長していく姿はいづるとメイコの楽しみの一つであり、教えがいがあると自然と張り切っていくばかりだ。
いづるとメイコが嬉々としていろいろと教えていく中、メイコがとある歌をミクの前で披露したところでいづるは驚いたのか、目を白黒させていた。

「…メイコ!?」

いづるがぽかんと目を見開かせたまま固まってしまったのも無理もない話で、メイコが歌ったのはいづるとメイコが深く結びつくようになった曲―つまり、プロポーズにと送られた曲であった。
身近な存在とはいえミクにこの歌を知られることには抵抗があったらしく、いづるはボンッとゆでダコのように耳まで顔を赤くしている。

「…マスター?」

そんないづるを見つめながら、ミクは不思議そうに首を傾げていた。どうやらいづるが顔を赤くしていることが分からないらしい。
純粋な眼差しを送るミクにそんな視線に耐えきれずに狼狽えているいづる。二人を優しく見守りながら、メイコは穏やかに笑っていた。

「ま、ミクには少し早かったかしらね?」

誰にも聞こえない小さな声で呟いて、メイコはミクの頭を撫でていく。メイコの優しい手のひらが心地よくて、ミクは思わず目をとろんとさせてしまう。

「でも、いつかはこの歌の意味が分かる時がくるから」

メイコの姉のような、母親のような温かい微笑みにミクはにぱっと頬を緩ませるとそのまま抱きついていった。
相変わらずミクは分からないといった様子で瞳をぱちくりと瞬かせている。それでもメイコからの愛情は伝わったらしく、眩しそうに目を細めていた。

「…メイコさん」

初めは片言であった呼び名も、今ではすっかり敬愛の込められたものになり、ただ無邪気に甘えてきた頃のことを思うと、いづるにとってもメイコにとっても少し寂しい。
だから二人ともミクにたっぷりと愛情を注いでいく。ただ、二人の注ぐ愛情が微妙にニュアンスが違っているのはご愛敬だ。そんなこんなで二人に挟まれて、ミクは満たされたような感覚に陥る。しかし、ふと気が付けば辺りの景色が掠れたものになっていた。
同様にいづるとメイコの顔も薄れていく。ミクが慌てふためいて周りを見回す中、どんどんと意識が遠くなっていくのを自覚していた。
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愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (2/8)

…チチチ。

小鳥のさえずりに起こされて、ミクはゆっくりと起き上がる。部屋には薄日が差し込まれており、ミクは動きの鈍い身体をじっくりと伸ばしていく。
目が覚めたところで薄らぼんやりと記憶の片隅に残ったものを思い出そうとミクは頭をひねることにした。

「夢…だったんでしょうか?」

ずいぶんと昔の話だ。研究室の無機質な生活から一転して、自分自身の存在意義を教えてもらったことを思い出す。
確かに研究室では何不自由なく過ごすことができた。しかし、そこはカゴの中。自由を奪われた小鳥のごとく歌うこと以外に選択肢は与えられず、ただのモノとして扱われていた。
今ではもう昔の影はなりを潜め、多少の不自由はあるものの初音ミクとして接してくれている。ただ一人の初音ミクとして愛されていることに充実感を覚えていた。
それはさておき、ミクは先ほどの夢のことを考える。とても懐かしい夢だった。どうしてこのような夢を見てしまったのだろうか。
とりあえず頭をひねってみたものの、答えは見つからない。仕方なくミクは再び身体を伸ばしてベッドから降りると寝巻きのまま部屋を出ていった。
リビングに行けばすでにミクのマスターであるいづるが朝食の準備をしており、手伝うためにエプロンを羽織っていく。

「おはようございますマスター!」
「おはよう、ミク」

笑顔で挨拶を交わして、ミクはいづるからサラダを受け取るとテーブルへと運ぶ。すでに朝食の用意はほぼ終えており、テーブルはシンプルではあったが彩られていた。
それぞれのマグカップからは食欲をそそるかのように湯気が立ち込めている。

「ありがとね、ミク」

あまり手伝ったという自覚はないのだが、面と向かって言われるとなんだかこそばゆい。
半ば照れ気味に視線を落として、それをごまかすようにミクはトーストを口にくわえた。
その様子にいづるは穏やかに笑い、自身も席に着いて朝食に手を伸ばす。メイコもルカもまだ姿を現していないが、たまにはこのような朝食も悪くないとゆったりとした時間を楽しんでいた。
穏やかな時間が過ぎていく中、ミクは今朝の夢が脳裏を過っていく。

「あの、マスター。聞いてほしいことがあるんです」

ちょうどいいかもしれない。ミクは今朝の夢のことを話していく。
初めは虚を突かれたように目を丸くしていたものの、次第にいづるの表情は夢で見た時と同じように和らいでいた。
どことなく嬉しそうにしているのは気のせいであろうか。

「あの、マスター聞いてますか?」
「聞いてるわよ。だからもっとミクの話を聞かせて?」

あまりに機嫌良さそうないづるの笑顔にミクはついつい戸惑ってしまうが、そのまま話を促されると一呼吸置いて再び口を開いていった。
その後も楽しそうにミクの話に耳を傾いて、のどかな時間が過ぎていく。そして、ミクの話を聞き終えたところでいづるはカップを飲み干して軽く一息吐いていた。

「ミクもいよいよそんなことを考えるようになっちゃったんだね」
「………?」

いづるが昔の自分に姿を重ね合わせて微笑んでいるが、そのことを知るよしもなくミクは気づかない。
ぱちくりと瞳を瞬かせたままのミクをじっと見つめて、いづるは席を立つとミクの下に歩み寄りそっと手を頭の上に乗せていく。
いづるの温かな眼差しと相まって、ミクは眩しそうに瞳を細めていた。

「ミク、もし伝えたい言葉が見つかったらいつでも相談に来なさい。私は全力で協力するから」
「は、はぁ…」

夢の理由を知りたかったのに、いづるにはぐらかされたような気がしてミクは狐に摘ままれたような顔をしている。
改めて問いただしてみようと思ってみたが、その時にルカとメイコが姿を現してきた。

「…おはようございます」
「おはようミク。マスター、おはようございます」

ルカの姿を見つけるなり、ミクは思わず口をつぐんでしまう。

「おはようメイコ、ルカ。朝ごはん冷めないうちに食べてね」
「…いただきます」
「いただきます!」

三人のやり取りを見ながら、ミクは自分が押し黙ったことに戸惑いを感じていた。
別に普段通りの他愛のない会話のはずだ。なのにルカの姿を見つけた途端に身体が強張ってしまう自分がいる。
どうしてだろう。ただ夢の話をするだけなのに、ルカの前では躊躇していることにミクは戸惑っていた。

「…おはようございます。ミクさん」
「おはようミク」
「………おはようございます。ルカさん、メイコさん」

結局、挨拶を交わすことが精一杯で、ミクはもやもやとしたまま冴えない表情でいる。

愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (3/8)

朝食を終えた後もミクはもやもやを抱えたまま、縁側でひとり考え事をしていた。
夢の事、ルカの事、挙げてしまえばキリがないが、これまでにこんなことがなかった自分自身に驚いている。
ルカとはどんな関係なのだろう。少なくとも恋人のような関係だとは思っていた。口づけも交わしていたし、お互いに良好な関係なはずだ。
ただ、心がざわめいたことはこれまでにはなかったし、自分自身ルカにどうしたいのか、どうしてほしいのか分からない。
ぐちゃぐちゃになった頭の中でミクはどんよりと気分が重く、空は晴れ渡っているにもかかわらず、沈んだような空気を醸し出していた。

「ミク、どうしたのよ。元気ないわね?」

そんな中、鬱蒼とした空気を切り裂くかのようにメイコが声をかけてくる。

「メイコさん…」

今まで周りに気付いていなかったのか、ミクは慌てた様子で顔を上げていた。
いつもはからっとした笑顔で接しているが、ミクの表情を覗き込んだ途端にメイコはぎょっと神妙な顔付きになる。そして、そのままミクの手を取ると強引に引っ張っていた。

「……メイコさん!?」

不意を突かれたのと、抵抗する気力が無くなっていたということもあり、ミクはあっさりとメイコの部屋に連れられる。
ベッドの上に座らされたところで、おろおろとしていると呆れたようなため息がメイコから発せられていた。

「落ち着きなさい。せっかくの可愛い顔が台無しじゃないの」

鏡を突き付けられて、言われて初めてミクは瞳を真っ赤に腫らしていることに気が付いた。どうやら泣いてしまっていたらしい。
ごしごしと目を擦り、頭をぶんぶんと振り回して、それからようやく顔を上げる。先ほどまでの力のない眼差しは影を薄め、ミクの瞳には意志の強い光が灯されていた。

「ありがとうございます。メイコさん…」
「別に構わないわよ。ルカに見せるわけにもいかなかったし」

あっけらかんとした口調ではあったが、それが愛情からくるものだと分かっているからミクは安堵の表情を浮かべられる。
その様子に安心したのか、メイコはミクの隣に腰を下ろすとミクの頭を自分の胸に押し付けるように抱き締めてきた。
見上げた側から覗かせるメイコの姉のような母親のような優しい眼差しが、ミクを安心して身を預けさせる。

「それで、急にどうしたわけ?」
「………あのですね」

メイコに促され、ミクは夢の事からなにから語り出していた。吐き出すつもりで全てを語り、それをメイコは相槌を打ちながら真剣に耳を傾けていく。
全てを話し終えると憑き物が落ちたようにすっきりと表情が晴れ渡っていた。
そして、話を聞いていたメイコはというと、ミクの頭にぽんと手を置きながら機嫌良く肩を震わせている。まるで先ほどのいづると変わらない態度に、ミクは口を尖らせていた。

「うう、メイコさん。なんで笑うんですか」
「ああ、ごめんね。つい昔のことを思い出して、ね」

不機嫌に睨め付けてくるミクの視線も何のそのといった感じで、メイコは過去に想いを馳せる。
昔の自分達の姿が重なった気がして、とても満足げに微笑んでいた。そんなメイコに毒気を抜かれたのか、ミクはきょとんと目を瞬かせている。

「昔のこと…ですか?」
「ええ、そうよ。そういえば、マスターがわたしに送ってくれた時のことを話したことはなかったわね。聞きたい?」

そう言ってメイコはミクの瞳を真っ直ぐに見つめて返答を待っている。純粋な興味からミクは頷くとしっかりとメイコのことを見つめ返していた。

「すごく聞きたいです」
「分かったわ。少し長くなるわよ?」

そう言うと、メイコは穏やかな笑顔で昔話に花を咲かせていく。ミクは楽しそうに話すメイコを眺めながらじっくりと耳を傾けていた。

愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (4/8)

それから一時間ほど過ぎただろうか。長いと思われた時間も終わってみれば呆気なく感じてしまう。
メイコの話を聞き終えて、今まで曇っていたのが嘘のようにミクの表情は清々しい。何か吹っ切れたように晴れ渡った表情はミクに活力を与えたことを物語っていた。

「メイコさん、ありがとうございます!」

ベッドに腰掛けていたミクは見上げるようにメイコを見つめ、いつもと変わらぬ笑顔を取り戻す。
…いや、初めて見せた笑顔の時以上に眩しく、不思議とメイコの胸の内から温かな感情が湧き出てきていた。

「そう?よかったわね」

とはいえ、メイコはあくまで見守るように微笑むだけで『がんばれ』とは言わない。すでにミクにはやることは定まっているし、口出しするだけで野暮というものだ。

「あとでゆっくりとのろけ話でも聞かせてもらうわ。いってらっしゃい」

だからメイコは自分に合った言葉でミクを送り出す。背中を押してもらえたことが嬉しくて、挨拶変わりにメイコに抱き付いていた。

「行ってきます!」

メイコからの応援と勇気と愛情を糧として、ミクは部屋を後にする。
一目散にいづるの部屋へと向かい、勢いそのままに中に入り込んでいた。

「どうしたのミク?」

どうやら作業中だったらしく、いづるに驚いた様子は見られない。
それどころか実に楽しげな笑顔を見せているあたり、まるでこういうことが起こるのを待っていたかのように落ち着いた様子で待ち受けていた。

「マスター、お願いがあるんです!」

しかし、そんないづるに動じることもなくミクは詰め寄ってくる。ずいっとキスしてしまいそうな距離にまで迫られてしまったが、いづるは怯んだ様子もなくミクに話を促していく。

「いいわよ。それで、お願いというのは何かしら?」

いづるに促されたまま、ミクはありとあらゆる想いをぶちまけていた。
ルカに対する想い。ルカに対して自分は何がしたいのか。とにかく思い付く限りの全てを晒し出していく。
そんなミクの話を真剣に受け止めて、いづるはうっすらと微笑みを浮かべていた。母親のような姉のような、そんな温かい笑顔でいづるはメイコと同じようにミクを抱き締める。

「分かったわ。出来る限り協力させてもらうわね」
「あ、ありがとうございます!」

嬉しくてぱあっと輝かせた笑顔で、ミクは何度も何度も頭を下げていた。そんなミクの態度に何を思ったのか、コツンとミクの額を叩く。

「マスター…?」

どうして叩かれたのか理解出来ず、ミクは額を押さえて不思議そうにいづるに視線を送っていた。
そんなミクの様子が可笑しかったのか、いづるはクスッと唇を歪ませてしまう。

「何度も言うようだけど、私は…メイコもだけど、貴女達の幸せを願っているの。ミクの伝えたいことは十分過ぎるほど伝わったから、あとは任せて。
最高の曲に仕上げてみせるわ。ルカに伝えられるといいわね」
「その…、ええと、…ありがとうございます」

照れた様子で視線を反らせて、ミクは少しだけ俯いていた。
こうしていづるの部屋にやってきたのはルカに捧げる曲を作ってもらうためである。
メイコの話を聞いて、いてもたってもいられずにここへとやってきていた。
ミクがこの家にやってきてからずっと一緒に暮らしているだけに、ミクが自分自身をはっきりと示してくれることがいづるもメイコも嬉しくて仕方ないのだろう。
ついつい世話を焼いてしまって一種の親バカ…いや、姉バカと化していた。

「すぐに取り掛かるから時間をちょうだい」
「ありがとうございます。マスター」

何度目か分からないお辞儀をして、ミクはいづるの部屋を後にする。扉をぱたんと閉めたところでミクは扉に身体を預け、大きく息を吐いていた。

「ルカさんに捧げる曲ですか…」

声に出した途端、ばくばくと高い心臓の音がミクを襲ってくる。今まで気付いていなかった緊張が一気に押し寄せてきて、腰が抜けそうなくらい身体に力が入らない。
思えば勢いとはいえ、過去の自分から想像出来ないくらいに激しい自己主張をしてしまったのだ。

「………ルカさん」

愛しい人の名前を呟いて、ようやくいつもの調子を取り戻したのか自分の部屋へと帰っていく。
ただ動悸だけは治まらず、これからずっと胸が締め付けられる日々が来ることに少しだけ不安を覚えていた。

愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (5/8)

それからいづるの部屋に呼び出されたのは三日後のことだった。あまりのハイペースに驚きを隠せないが、それだけ二人のことを考えていたのだろう。
ミクはそう思って、いづるの部屋の扉をノックしていた。
あれから三日間、特に大したことはなかったがやはりルカのことを意識していたのか声が上擦っていたのは覚えている。
その際にルカに心配されたりもしたが、強引にごまかしてどうにか話を反らしていた。
あからさまに態度がおかしいのは仕方ないが、そこはメイコがちゃんとフォローを入れてくれている。
いづるとメイコに感謝しつつ、ミクはいづるの部屋に入っていた。

「待たせて悪かったわね。一応完成したから聞いてほしくてね」

寝不足なのだろうか、いづるは重そうにしているまぶたを無理矢理見開いているような感じでこちらを見つめていた。
否、睨み付けるといった表現が正しいかもしれない。

「マスター!?大丈夫ですか!?」
「平気よ。それよりも感想を聞かせて?」

寝ぼけ眼を擦りつつ、ヘッドホンをミクに差し出していづるは椅子に寄り掛かる。
さすがに限界が近いのだろうか。ミクは慌ててヘッドホンを当てて曲を聞き入ることにした。
ミクの頭を音の奔流が突き抜けていく。自分の想いを曲に乗せただけあって、自分の身体に染み渡るように馴染んでいた。
歌詞の一つ一つが自分の心に刻まれて、興奮冷めやらぬ様子で身体を震わせる。

「マスター、ありがとうございました!」
「そう、よかった…わね…」

ミクが気に入ってくれたことを確認して、いづるの身体はゆっくりと崩れ落ちていた。そのまま静かに寝息を立てて、微睡みに身を任せていく。
そんないづるをベッドまで運び、ミクは丁寧に頭を下げる。

「ありがとうございましたマスター。ゆっくりと休んでくださいね」

冷えないように布団を被せて、ミクは再びヘッドホンを着けて確かめるように曲に聞き入っていた。
ある程度聞き慣れたところでヘッドホンを外し、いづるが眠っているベッドを見やる。しばらくは起きる様子は見られなさそうだ。この曲を作ってくれたことに感謝して、ミクは深々と頭を下げて部屋を出る。
部屋を出たところで大きく深呼吸。上がっていく心拍数を抑えて、ミクはルカを探そうと歩き出した。

「…ミクさん、どうしました?」

リビングに向かえばルカとメイコが談笑を交えており、ミクがやってきたことに気が付いてルカが声を掛けてくる。
緊張からか身体が強張ってしまうが、これから為すことを考えると立ち止まってはいられない。
そんなミクの真剣な眼差しに気が付いて、メイコは立ち上がると調理場に足を運ぶ。

「ミク、ちょっとマスターにお粥を作らないといけないからルカの相手をお願い」

メイコがてきぱきとお粥を作っていくのを見ると、どうやら大方のところを察しているらしい。
感謝しているところに目で合図を一つ。メイコから背中を押してもらった気がして、緊張から固まった身体がほぐれていく。
あと一押しと勇気を振り絞り、ミクは爆発してしまいそうな心音を押さえ込む。

「ルカさん、大事なお話しがあるんです」

口にしてしまえば、一気に血の気が引いたように体温が下がっていくのを実感していた。
おそらくほんの数秒である時間がミクの中で永遠にすら数えられる。それくらいに冷静になっている自分に驚いていた。

愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (6/8)

そして、それは告げられたルカも同様であった。ミクがここ数日間、態度がおかしかったことは覚えている。
しかし、メイコがフォローに入っていたし、時間が解決してくれるものだと思っていた。いや、勝手に思っていたのだろう。
出会った瞬間にルカの方から告白して、ミクとの時間を過ごし、何時しか口づけまで交わしていた。
しかし、それは一方的な感情ではないかと不安になっていたのは事実だ。
それ以来、確かめるのが恐くてあと一歩が踏み込めずにいた。

「…ミクさん」

そのミクが大事な話があると言って目の前に立っている。真剣な表情はルカの心を捉えて魅入られてしまう。
多分、ルカよりも緊張しているのかもしれない。耳まで赤くして、今にも心臓が張り裂けてしまいそうなくらい苦しげな表情が痛いくらいに伝わってくる。
…信じていいのだろうか。自分のミクへの想いとミクからの想いは繋がっていると自惚れてもいいのだろうか。
思わずメイコを見れば、ただ何も言わず微笑みかけるだけである。応援してくれているんだということが分かると自然と身体が火照っていたと自覚していた。

「…分かりました。とりあえずミクさん、場所を変えませんか?」

どこか落ち着いた場所でミクと二人きりになりたくて、ルカはミクの反応を伺う。
ミクはというと一瞬動きを止めたと思えば、すぐに全身で喜びを表すようにぷるぷると震わせていた。

「はいっ!」

ぱあっと輝くミクの笑顔がルカの心を揺さぶっていく。やはりミクの笑顔が好きだとルカは頬を緩めていた。
クスクスとひとしきり笑い声を上げて、ルカはすらっと立ち上がる。

「…それでは行きましょうか」

いつもの笑顔でいつものようにミクの手を取っていつものようにミクの顔を覗き込む。
それだけのことなのにルカの心音は大きく、早くなっていた。多分、相当意識しているんだろうとルカは苦笑いを浮かべる。

「ルカさん、どうかしましたか?」
「…いえ、なんでもないです」

怪訝そうに覗き込んでくるミクに慌てて取り繕って、いつもの表情に戻していく。それが可笑しかったのか、ミクの頬はほどよく緩んでいた。
部屋を出る前にメイコの様子を見やる。相変わらず忙しそうに調理場をうろついていたが、こちらの姿を見つけるなりすぐに笑顔で送り出してくれる。
ルカがお礼にと頭を下げれば、隣でミクが同じように頭を下げているのが見えた。
同時に頭を上げてお互いを見合わせて目をぱちくりと瞬かせる。
ついついお互いに吹き出してしまい、気がほぐれたところで二人はリビングを後にしていた。

愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (7/8)

そして、二人はミクの部屋にやってきて、二人並んでベッドに腰掛けている。

「…ミクさんの大事なお話し。聞かせてください」

腰を下ろして落ち着くために深呼吸を一つ。それからミクに視線を向けて単刀直入に話を促していく。
すでにルカは緊張で固まっていた。心音が直接聞こえてきそうなほどだ。

「ルカさん、マスターとメイコさんの馴れ初め聞いたことありますか?」
「…はい、ミクさんと一緒にマスターのお話を聞いてましたよね?」

もちろんその事は覚えている。その話はミクと二人並んでいづるから聞いていた。
しかし、それがこの状況と何の関係があるのだろうか。

「それではメイコさんからは?」
「…ないです」

事実メイコから聞いたことはないので、ルカは素直に首を横に振っていた。

「実はですね…」

ルカの返答を確認して、ミクは全てを話し始める。
最近見た夢の事、メイコから聞いたもう一つの馴れ初めの話。そして、自分の全ての想いが込められた曲をいづるに作ってもらった話をルカに伝えていく。

「それでルカさんに聞いてほしいんです」

おそるおそるその事を告げて、ミクはルカの返答を待つことにする。恐怖以外の何者でもなかった。
時が止まったような静寂が部屋を支配する。どうしようもない緊張感が手が震えているのを気付かせていた。
ミクは震える手を掴んでなんとか自分を保とうと堪える。早く返事を聞かせてほしい。たとえどのような結果になろうとも、少しでも早く楽になりたかった。

「…聞かせてください」

ルカの落ち着いた声が時計の針を進めていく。気が付けばルカの手がそっと添えられており、ミクははっと顔を上げていた。
どうやら恐くて俯いていたらしい。

「いいんですか?」
「…もちろんです。ミクさんの歌声、聞かせてください」

二人は見つめ合い、再び時が止まったような錯覚に陥ってしまう。
しかし、今度のは心穏やかに一秒でも長く続いてほしいと願わずにはいられなかった。
ルカが力強く頷いたのを見て、ミクはすくっと立ち上がる。ベッドに腰掛けているルカと向き合う形で大きく息を吸い込んでいた。

…部屋中にミクの歌声が響き渡る。

演奏も何もない、ただ純粋なミクの歌声だけが支配している。
しかし、だからこそルカに直接ミクの想いが伝わっていく。
歌うこと。ボーカロイドとしての本能。自分の想いを込めた歌を捧げるということはプロポーズに等しいということをメイコから教えてもらっていた。
だからミクは歌い続ける。自分の想いを乗せて、真剣にルカを見据えて全力でぶつけていた。

「…………………」

やがて歌も終えて、再び静寂がやってくる。ミクはルカの隣に腰を下ろして見上げていく。
頭一つ分の高さにあるルカの表情は髪に隠れてよく見えない。

「……ルカさん?」

不安で正面から覗き込もうとすると、急に視界が真っ暗になっていた。
同時に柔らかい感触が伝わってくる。すぐにルカに抱き締められたことに気が付いた。

愛しき歌姫に捧げるコイノウタ (8/8)

「ル、ル、ルカさん!?」

慌てて離れようとしてもルカにがっちりと抱き締められていて、なかなか脱け出すことができない。
ルカのふくよかな感触で息苦しくてなんとか脱出しようともがいていた。

「…ありがとうございます」

そんな中、唐突に言われたその言葉がミクの動きをピタリと止める。いつしかルカから抱き締められている力は弱まっており、ミクはふと顔を上げた。
ルカの目に涙を浮かべ泣きじゃくっている。いつも見せている冷静で大人びた女性の姿形は見る影もなくなっていた。

「…ミクさんに嫌われていたわけじゃなかったんですね。よかったです」
「え…?」

一瞬意味が分からず、ミクはぽかんと気の抜けた顔で聞き返す。聞き間違えなんじゃないかと何度もルカの言葉を反芻していた。
ミクのあまりの間の抜けた様子にルカも落ち着きを取り戻したようだ。

「…最近ミクさんの様子がおかしくなっていたのと、なんとなく避けられてた気がしましたので」

言われてみれば、ルカがそんなふうに感じたことに心当たりがちらほらと思い浮かんでくる。
ここでようやく自分の仕出かしたことに気が付いて、ミクはしょんぼりと項垂れてしまった。

「………ごめんなさい」

会わせる顔がないのか、ミクはルカの胸に顔を埋めて隠す。
一方、ルカにしてみれば確かにミクとの微妙な距離は辛かったが、今はそんなことはどうでもよかった。
ミクに愛されている。その事実だけでルカは幸せで心が満たされていた。だから今度は自分の番だと言葉を紡ぎ出す。

「…その、もう一度歌ってください。そしたら許してあげます」
「え…?」

ルカの言葉の聞き違えたかと、ミクは今度は勢いよく顔を上げると、林檎のように真っ赤な顔をしたルカと視線が合わさった。
…可愛い。滅多にわがままを言うことがないルカが可愛らしくて、さっきまでの陰鬱な空気を吹き飛ばす。

「じゃあキスしてください。それならいくらでも歌いますから」

ルカに負けじとミクもまた桃のように頬を染めておねだりしていく。
このまま歌ってよかったが、せっかくの二人きりという中、それだけではなんとなくもったいない気がした。

「…いいですよ」

幸福に満ちたルカの笑顔に吸い込まれるように二人は距離を縮める。熱く視線を交わし、お互いの息遣いが届きそうになったところで二人は自然と瞳を閉じていた。
それからお互いの柔らかい唇が触れ合っていく。それと同時に身体も寄せ合い、背中に手を回してそっと抱き締めていた。
二人の鼓動は重なり合うように高鳴っており、それが二人の間で感情を昂らせる。
やがて唇を離したところで、ルカがミクを抱き寄せていた。いづるもメイコもよく抱き締めてくれるが、ルカのそれは格別だ。
安堵を覚えながら、ミクは体重を預けてルカに甘えていく。もう少しだけこうしていたくて、ミクはきゅっとルカの腰に手を回していた。

「…今度はミクさんの番ですよ?」

とはいえ、やはりミクの一方的な展開にはならないらしい。
仕方なく立ち上がろうとすると、ルカに手を掴まれて思わず動きを止めてしまう。

「ルカさん?」
「…ここで、ミクさんの一番近くで聞かせてもらえませんか?」

まじまじと上目遣いで見つめてくるルカの表情は、ミクの心拍数を上げるのにとても効果的だ。
あまりにも幸せすぎてどうにかなってしまいそうで、ミクは顔が緩むのを抑えておくことができない。

「わかりました。ルカさんだけの特等席ですからね?」
「…はい」

そう言うと、ミクはルカの耳元で囁くように歌い出す。まるで恋人同士で愛を語らうように甘く、幸せな時間が部屋を満たしていく。
二人はベッドに腰掛けて、指を絡めながら重ね合う。時折おしゃべりを交えながら、ミクの歌声を響かせながら、二人は幸せな時間を謳歌していた。









終わり

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百合スキーな社会人やってます。


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