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空と星と私達

≫2011年03月

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VOCALOIDと思い出話 (1/6)

「もしもし?あ、母さん?
ええ、元気よ。私もメイコもミクも。それとこの前話したルカも、そっちは?
そう、みんな元気にしてるのね?
よかった…。それじゃ、うらら達によろしくね」

母からの電話を終えて、私は受話器を置くとミクが不思議そうに私の下へ歩み寄ってきた。

「マスター、今の電話はどちら様だったんですか?」

どうやら私の電話の相手が気になったらしく、興味津々といった表情をしている。私は頬を少し緩めて、話し相手のことについて語ることにした。

「私の母、つまり実家ね。前に妹のうららと会ったことは覚えているでしょう?」

ミクは素直に頷いてきて、私の話に耳を傾けてくれる。曇りひとつない無邪気な笑顔がなんとも心地よい。

「はい、あの後リンちゃんやうららさんと仲良くなれました」

まあ、私は大変だったけど、ミクの楽しそうな表情を見ることができてなによりだ。そんな中、ミクに近づいてくる人影が一つ。

「…リンちゃんって誰ですか?」
「ひゃあっ!?」

ミクの後ろから恨めしそうにルカが現れて、そのままミクに抱きついていく。
どうやら、リンのことでやきもちをやいているらしく、私はついついクスッと微笑んでしまった。

「私の妹と一緒に住んでいるボーカロイドよ。そういえば、メイコも実家から来たんだっけ」

途中までリンの話だったのに、メイコの名前が出たとたんにピタリと騒ぎが止まる。メイコがとても慕われているのだろうと、私はうらやましく感じた。

「その割にはメイコさんがマスターの実家の話をされたのを聞いたことがないんですけど?」
「まあ、メイコは眠ったままここまで送られてきたからね」

不思議そうにしているミクに私は頭を撫でながら答えてみる。あの頃の記憶が蘇ってきて、つい遠い目で思い出に耽ってしまった。

「…あの、前にも言いましたけど、メイコさんが来た頃のお話を聞いてみたいです」

ルカもミクもメイコとの話を聞きたいと、真面目に私を見つめてくる。私はメイコとの出会いを思い出すと、懐かしく感じると共に、胸の辺りが温かくなってきた。
今日は時間もたっぷりとあるし、話しても大丈夫だろうか。

「別に、あんまり面白くないわよ?」

一応、断りを入れてみたけれど、それでも二人は興味津々といった表情で瞳を輝かせていた。

「はい!メイコさんとのお話聞かせてください!」
「…マスターのお話にとても興味があります」

二人とも椅子に腰かけて、ものすごく楽しそうに私が話すことを待っている。
二人にまじまじと見つめられてなんだか気恥ずかしい。

「なんか…、緊張するわね」

私は二人の向かい側に腰かけて、何から話そうか思案する。とりあえず、メイコの表情を思い浮かべながら、私は話すことにした。
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VOCALOIDと思い出話 (2/6)

突然送られてきた大きな荷物、中身を見ることはできないけれど、人一人が入るには充分じゃないかという大きさに私は途方に暮れていた。
宛先は実家からで何事かと思い、とりあえず受話器を取って番号を押してみる。

「もしもし、母さん?
え?うん。荷物ちゃんと届いてるけど、…ボーカロイド?」

ボーカロイド。歌うことを目的として開発された存在。開発が発表されてから世界中の注目を集めていた。今、世界の名だたる企業がこぞって開発に勤しんでいるらしい。
一応、ニュースでボーカロイドのプロトタイプが開発されたと聞いていたので、ある程度のことは知っていた。
そして、受話器の向こうから聞こえてきた母の声が、私に荷物の中身を知らされることになる。

「メイコとカイトのモニターをすることなった!?」

母の言葉によると、とある企業で開発されたメイコとカイトに歌わせるために父のところにモニターの話が回ってきたらしい。
実家は全員音楽業界に身を置いているし、ボーカロイドにとっていい環境だというのが理由だそうだ。そして、私の勉強になるだろうとメイコを送ってきたということだった。

「…わかったわ。とりあえず、父さんにあんまりはしゃぎ過ぎないでって言っといて。
どうせ父さんのことだから、張り切って曲を書きまくっているんでしょ?」

受話器の向こうから、母の笑い声が聞こえるあたり図星といったところだろうか。まったく、父が新しいおもちゃを手に入れた子供のようにはしゃいでいる姿が目に浮かぶようで困る。
私はため息を吐いて「それじゃ」と受話器を置くと、早速メイコの顔を拝もうと荷物を開けていった。

「…綺麗」

整った顔立ち、張りのあるプロポーション。端から見れば人間と見紛う程の美貌。その姿に思わずメイコに見とれてしまい、私はしばらくの間、ずっと見つめていた。
やがて、荷物を開けたことが起動スイッチとなっていたのか、メイコはゆっくりと目を開けていく。
そのまま覗き込んでいる私と目が合ってしまい、私達はついつい見つめ合ってしまった。メイコは目をぱちくりと瞬かせてまま動かない。しばらくこのままでいたが、そう長くは続かずにそれまで止まっていた時間を再び動かし出すようにメイコが口を開いてきた。

「おはようございます。貴女が私のマスターになられる方ですか?」

これが私とメイコの初めての邂逅だった。
私はどうしたものかと考え込む素振りをしながら、起動したばかりのメイコを見やる。張りの良い大人の体つきをしているものの、表情は子供のように無垢で幼く、まだ生まれたばかりの赤子を思わせた。
ここまで来たらやるしかない。そう腹をくくると真っ直ぐにメイコと視線を交わしていた。

「まあ、そういうことになるのかしら?
私はいづる。これからメイコ、貴女のために曲を書くからよろしく頼むわね」

私は簡潔に自己紹介をして、メイコに微笑みかける。メイコは素直に首を縦に振ると、そのまま私の手を包み込むように握り締めてきた。

「はい!よろしくお願いします、いづるさん!」

満面の笑みを浮かべてメイコは挨拶を返してくれる。私は少しだけ見とれてしまったけれど、顔には出さないようにと大きく息を吸い込んだ。
今思えば、出会ったこの時から少しずつ惹かれていったのかもしれない。

「ええ、これからが楽しみね」

こうしてひとつ屋根の下、二人で過ごす日々が始まろうとしている。

「でも、その前に…」

私は腕を捲ると、家財道具一式を整理していく。家族が増えたものだから、模様替えをしようと張り切って体を動かしていく私がいた。

「わたしも手伝います」

メイコもそう言って私を手伝ってくれる。
結局、その日は一日中家の模様替えをすることになり、朝を迎えた頃にはメイコと二人でベッドにぐったりと横になっていた。

VOCALOIDと思い出話 (3/6)

そして一週間が過ぎた頃、私は特に曲も作らず、メイコに一般常識や料理といった生活の知識ばかりを教えていた。

「あの…、いづるさん。わたしはいつになったらいづるさんの曲を歌わせていただけるんですか?」

さすがに自分の曲のレッスンを始めない私に不安を覚えたのか、メイコはおずおずと聞いてくる。
私は無理もないかと思いつつも、まだ歌わせるつもりはないと口を開いた。

「ごめんね、まだメイコのための曲は出来てないの」
「そうですか…。わたしは早くいづるさんの歌を歌いたいんですけど…」

なんとなく焦っている声音でメイコはうなだれている。
そりゃ、メイコがやってきて一週間。レッスン用の曲は歌っているけど、私の曲は一切歌っていないから焦ったりもするだろう。ボーカロイドとしてストレスも溜まるはずだ。
けれど、それは理由があるわけで、メイコを安心させるために私は説明することにした。

「焦らないで。私の歌を歌わせないのはちゃんと理由があるから」
「でも…、私は早くいづるさんの歌を歌いたいんです」

メイコは焦るばかりで目の焦点が合っていない。
これ以上はメイコの負担が大きくなる。
そう考えると、私はメイコの肩を掴んで正面から向き合い、まっすぐに視線を合わせていた。

「メイコ、貴女は歌手になりたいの?
それとも、歌を歌いたいの?」
「…え?」

言っている意味がわからなかったのか、メイコは目を瞬かせて呆けた表情をしている。
私は自分の想いをなんとか伝えたくて、言葉にしようと頭をひねっていた。

「私はメイコ、貴女のためだけの曲を作りたいの。プロデューサーとしてではなく、純粋に貴女だけに歌ってほしい曲を。
だから、貴女のことをもっと知りたいのよ」

私の言葉が届いたのだろうか、メイコは私の目をじっと見るばかりで動かない。

「私がメイコに歌以外のいろいろなことを教えたりしている理由はこれなの。
だから、分かってとは言わないけれど、理由だけは知っていてほしいわ」

とりあえず、私の説明はこれで終わりと打ち切って、私はメイコを見やる。
メイコもまた真剣に見つめ返してきて、じっと私と視線を合わせてくれていた。

「いづるさん…。いえ、マスター。わたしもマスターのために歌いたいです。
だから、マスターのことをいろいろ教えてください」
「ええ、よろしくねメイコ」

その時の希望に満ちたメイコの笑顔は私にはとてもまぶしく感じられた。
そんなやり取りがあり、一月の月日を経て、私はメイコに初めての曲を送ることになる。
初めて曲を送った時のメイコのなんとも言えない嬉しそうな表情は今でもくっきりと目に焼き付いている。初めて一緒に歌ったあの幸せな時間は忘れることはできない。

VOCALOIDと思い出話 (4/6)

そして、メイコに曲を書き始めてからしばらく経ってからのこと。

「マスター!」

私との生活にもようやく慣れてくれたらしく、メイコは機嫌良く私の下へ駆け寄ってくる。
まるで子犬になつかれていりみたいでなんだかくすぐったい。

「どうしたの、メイコ。ずいぶんと機嫌が良さそうじゃない?」
「はい!初めて他の方から拍手をいただいたんです」

それはメイコのために書いてた曲で、その内のいくつか上司が選んでくれた良さそうなものを公開していた。
もちろん反応を貰うことは難しく、やっと良い反応をもらうことができて、私達は素直に喜ぶ。
それまでは試しに上司に聞かせてみては、厳しい言葉やそれに伴うアドバイスをもらっていた。そんな時はよくメイコと近くの公園で練習したり、慰め合ったりしていたものだ。
そして、何曲も何曲も作り上げた後、やっと上司が「いいんじゃないかしら?」と判を押してもらうことが出来た。そうして太鼓判を押してくれた曲を公開していた訳だけれど、こうして拍手をもらうまではとても不安だった。

「ありがとう、メイコのおかげよ」

自然とメイコへの感謝の言葉が出てきて、私はゆっくりと微笑みかける。
メイコは急に表情を赤らめて、慌てたように手を振ってきた。その仕草がとても可愛くて、なおさら頬が緩んでいくのを実感してしまう。

「そんな…、すごいのはマスターの方です!
わたしはただマスターの書いた曲の通りに歌っただけですから!」
「そんなことないわよ。ちゃんと声に力がこもっているし、張りも伸びもあったわ。間違いなくメイコの力よ」

顔をさっきよりも真っ赤にして思いきり照れているメイコが可愛らしくて、私はクスッと笑い声を上げてしまう。
笑い声が追い打ちになったのか、ますますメイコは顔が赤くなっていき、気づけば頭から湯気が出てきそうと思わせる程になっていた。

「…たとえそうだとしても、すごいのはマスターだと思います。わたしはただ、マスターのことを想って歌いました。マスターがわたしに力をくれたんです」

メイコの言い放ってきたセリフに、顔の表面がみるみる熱くなっていくのを自覚してしまう。屈託のないメイコの笑顔に、私は胸の鼓動が激しくなっていた。
…どうしてだろう、メイコに褒められただけなのに胸がとても熱く感じるのは。


「…その、ありがと。なんかメイコに褒められたことが一番嬉しいわね」
「はい。わたしもマスターに褒められることがなによりも嬉しいです」

この時、自分の胸の中に生まれた温かい感情がどんどん膨らんでいくように感じてしまう。
気がつけば、私は力強くメイコを抱き締めていた。「えっ」とメイコの驚きの声が聞こえたが構わず抱き締めていく。

「ありがと、本当にありがとね、メイコ」
「…マスター」

震え出した身体を落ち着かせようと、私はメイコとひとつに溶け込んでいくように優しく抱き締めていく。メイコに私の鼓動が聞こえても構わないくらい密着していくと、メイコもまた私から離れないように抱き締めてくれた。
やがて身体の震えも止まり、私はメイコを放してお互いに見つめ合う。

「メイコ…。目が潤んでいるわよ」
「マスターこそ涙が溢れそうになってますよ」

なんとなく、私達の心がひとつに溶け合ったような気がして、私達は笑い合っていた。
…しばらくして、私は何かを思いついたようにゆっくりと口を開いていく。

「…そうだ。拍手をもらった記念にメイコにご褒美をあげようか。メイコ、私に出来ることならなんでも言っていいわよ」

私の言葉にメイコはきょとんと目を瞬かせていた。けれど、しばらくするとおずおずとその事を告げてきてくれる。
私は笑顔で応じると、早速メイコの手を引いていき行動を開始していた。

VOCALOIDと思い出話 (5/6)

「一緒のベッドで眠りたいなんて、本当にそれだけでよかったの?」

寄り添うように同じ布団にくるまって、私達はお互いに見つめ合っていた。メイコはあの時、「マスターと一緒に眠りたい」と言ってきただけだった。もっといろんなことを言ってくれてもよかったのに…。
しかし、メイコはただ嬉しそうに頷いて、ふんわりと微笑んでくれる。

「はい、今まではずっとカプセルの中で一人で眠っていましたから。近くにカイト君はいたんですけど、なんとなく無機的なあの部屋では実感はなかったですね。
だから、こうしてマスターの温もりを感じることが嬉しいんです」

可愛い。ぎゅうっと胸を締め付けられて、私はメイコの手を包み込むように握ると、そっとお互いの胸に添えるように手のひらをあてがう。
メイコの胸の鼓動が心地よく感じることができて、私はゆっくりと微笑んだ。

「大丈夫よ。こうしてお互いに胸の鼓動を感じることができるでしょう?
メイコはもう一人じゃない。私も一人じゃない。私達はちゃんとこうして触れ合うことができる。だから、大丈夫」

私の言葉にメイコは安心してくれたのか、表情が緩やかになっていく。そのまま、私はメイコを胸の前まで抱き寄せると、そっとメイコの額に優しく口づけをする。
メイコの頬がほんのりと染まっていた。

「メイコのこと、大好きよ。だから、メイコから絶対に離れないから」

メイコは上目遣いで私を見上げてくる。その可愛らしい仕草が私の胸をさらに高鳴らせていた。

「わたしもマスターのこと大好きです!
嫌でもマスターにずっとついていきますから覚悟してくださいね!」

そう言ってメイコはお返しにと私の額に口づけをしてきた。お互い、炎が出そうなくらい顔を紅く染めて見つめ合い、そして笑い合う。
やがて私達に眠気が襲ってきて、私達は手を取り合ったまま眠りについていく。額に残された熱い感触は意識が途絶えるまで消えることはなかった。

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