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空と星と私達

本格的移転開始 1/30 小ネタ(VOCALOID・extra)

キツネビトにまつわるとても優しいお話(5/6)

「大丈夫ですか?沁みたりしませんか?」
「へ、平気!痛くない!」

部屋中にやせ我慢ともとれるミクの叫び声がこだまする。
あれから十数分後、ルカは新しい包帯と消毒液を持って部屋に戻ってきていた。すっかり落ち着いたのか、いつもの顔色でミクの足に丁寧に消毒液の滲みた布を当てていく。
ミクも多少は顔を引きつらせながらもしっかりと我慢できている。もしかしたら、まともに動けるようになるまで大して時間はかからないのかもしれない。
ルカのてきぱきと手際の良い手当に、程なくして包帯を巻き終える。

「はい、終わりましたよ」
「あ、ありがとう。…ええと」

ミクが相手の名前を呼ぼうとして、ここで初めてお互いに名前を名乗ってないことに気が付いた。
双方とも間が抜けたことだと、ついつい軽く吹き出してしまう。

「申し遅れましたね。私は巡音ルカ。この教会でシスターをやらせてもらってます」
「…シスター?」

シスターという言葉が分からずに、ミクは頭に疑問符を浮かべてしまうが、それよりも自己紹介が先だと、とりあえずは気にしないことにした。

「わたしは初音ミク。そこの森の奥に住んでいるの」
「ミクちゃんね。そう、とても可愛らしい名前ね」

お互い簡単に自己紹介を終えたところで、さらりとルカが褒めていることに気が付く。
あっさりとした自然な流れの出来事であったため、ルカが微笑みかけたころに言葉がようやく浸透していた。
じわじわと胸の奥を燻り出す感覚は、今のミクを混乱させるには十分な話できょろきょろと視線が定まらない。

「…?どうかしましたか?」
「な、なんでもない!」

どうにかほんのりと赤い顔をごまかそうと、ミクはそっぽを向いてしまう。
まだまだ子供らしい仕草にクスリと笑って、まじまじとミクを見やる。どういうわけかミクの一挙一動から目が離せなくて、さっきからやばいくらい心音が高鳴っている。
ばくばくとしているがとても心地よく、もう少しだけ二人だけの時間を過ごしたいと思ってしまうのも無理はないかもしれない。
けれど、それはわがままというものだ。そろそろミクを休ませなければならない。ほかのキツネビトもミクが帰ってこないことに心配しているだろう。
ごちゃごちゃにかき混ざった感情を押し殺して、ルカはゆっくりと立ち上がる。

「ミクちゃんもそろそろ休みましょうね。傷に響きますよ?」
「えー?」

当然というかミクは非常に不満顔だ。まだお互いを知ったばかりだし、何よりも話し足りない。
始めのいざこざがあったとはいえ、今は親しくなりたいと胸を躍らせている。
それはルカにも同じことが言えた。しかし、今は名残惜しいが怪我を治すことの方が先決だ。

「これからもお話することはできますよ」
「ほんと?」

期待の込められた眼差しに、ルカは安心させるように微笑みかける。
ミクがキツネビトの集落に帰ってしまっても二度と会えなくなるわけじゃない。確かに自分達とキツネビトとの間に確執はある。
だがそれが自分とミクが会えなくなるという理由にはならない。
ルカはミクと分かり合えたことに可能性の未来を見出していく。今までのツケを払い出す時が来た。それだけのことなのかもしれない。

「ええ、ですから今はゆっくり休んで…」

と、言いかけたところでミクが静かに寝息を立て始めたことに気が付いた。おそらく緊張の糸が切れてしまったのだろうか。
疲れも溜まっていたのだろう。あっさりと眠ってしまったことにも驚いてしまったが、無防備な寝顔も見ることができたのも信頼の証だと思えてどこかほっとしている。
ルカは優しく微笑むと、穏やかな寝顔をしているミクの頭をそっと撫でて、そそくさと立ち上がる。そのまま部屋を出ていこうとして、服に違和感があることに気が付いた。

「…困りましたね」

違和感の正体を求めようと視線を追っていくと、服の裾をミクの手が掴んでいる。
小さい手ながらミクはルカの服をしっかりと掴んでおり、なかなか手放しそうにない。
苦笑いを浮かべながら、ルカはミクの隣に腰かける。ほんのわずかにミクの表情が緩んだのは気のせいだろうか。
こうなったら仕方ない。そんな風にため息を吐きながら、ルカは掴んだ手が緩むのをじっと待ちながら、ミクを見守っていた。
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